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KOBEZINE

INTERVIEW

2019.4.3

神戸といえば肉!
飲食業界注目株の若手オーナーたちに聞いた
神戸という街、食と経営、そしてめざす未来とは?

Text&Photo_ikekayo

神戸グルメといえば、中華、スィーツなどさまざまなものがありますが、そのなかでもやはり「肉」は外せません。神戸ビーフに限らず、あらゆる肉料理のお店が神戸にはたくさんあります。
そんな神戸の、個性的な「肉」のお店から3人の店主に集まっていただきました。 「Bistro Muog OT(ビストロ モゴット)」の藤岡利之さん、精肉店「Nick」の錦昭光さん、「Bistro Gallo(ビストロ ギャロ)」の川添義人さんです。 しかし今回フォーカスするのはお店ではなく店主そのもの。コックコートを脱いだ彼らからはどんな哲学が飛び出すのか?三宮一貫樓の安藤常務の呼びかけで実現した、他ではなかなか見られない店主同士の熱いトークを、どうぞ最後までお楽しみください。

神戸の飲食業界を牽引する若手オーナーたち

北野坂沿いにある「Bistro Muog OT(ビストロ モゴット)」は、神戸牛や淡路島の契約農家から仕入れる豚肉、神戸近郊で採れた新鮮なお野菜を使った料理を提供する完全予約制のお店です。オーナーシェフ藤岡さんは、元バーテン。神戸で7年ほどバーを経営していましたが、そこから料理人になったという経歴の持ち主で、実は料理の修行はしたことがないのだそう!

「最初は感覚だけで作ってたけど、料理はパズルみたいだと思います」

藤岡さん「バーをやってたときに、神戸であるバーのうち、単なる酒場ではなくて知識も技術もプロフェッショナルなバーっていうのがいくつあるのかと見渡したら、それはものすごく少なかった。その少ない枠で自分が勝ち残っていけるのかと考えたときにちょっと難しいなと。そこで、お酒も料理もきちんと合わせていいものを出せるお店をしようと思ったのがきっかけです。今でこそ、お酒と料理を合わせるっていう意識は広まってきてますけど、僕が今の店をスタートする約10年前はそういう意識は低くて、料理とお酒の質もバランスもすごく悪かったんですよね。」

ビストロモゴットの店内の様子

スタートしてから、提供する料理も試行錯誤しながらやっていましたが、当時いた料理人が辞めたことをきっかけに、修行もしないまま藤岡さんご自身で料理をすることに。カクテルを作っていた感覚で調味料のほどよい配合がつかめたため、結果的に美味しいものが作れたのだそうです。今ではもっと科学的に考えて味の計算をしている藤岡さんですが、最初の頃は感覚だけで評判のパテも作っていたというから驚きです。

「カクテル作ってたら料理がうまくなるのは分かる」と、賛同したのは精肉店「Nick」の店主、錦さん。

「僕も友達のバーを手伝っててカクテル作ってたら料理うまくなりましたね」

錦さんは、15年ほどモツ鍋やホルモンを通信販売するビジネスを展開しています。開始から10年ほど経ち、日本中の牧場をめぐっておいしい肉を食べてきた結果、世間で評価されている肉とご自身がおいしいと思うものがズレてきたと感じたそう。そんな折に、肉屋をやる夢を見て大興奮してしまったのだとか!

錦さん「肉屋やばいかも、と思ってそのまま眠れなくなってしまって。どうやってやればいいのかは全然わからなかったけど、神戸で肉屋ってすごいキャッチーで良いなと思って、肉屋をやろうと決めました。それから動き始めて、半年後にはもうオープンしてたんです。もう一度同じことをやれって言われてもできないと思います。いろんな偶然も重なって…」

Nick本店の外観

なんと、夢のお告げだったとは驚きです。Nickは中山手通に本店を構え、兵庫県香美町の黒毛和牛「但馬玄(たじまぐろ)」や長崎県南島原半島で育成されている豚「芳寿豚(ほうじゅとん)」を中心とした精肉と、ハムやベーコン、ジャーキーなどの加工品販売を行っています。本店にはイートインコーナーもあり、お肉とお酒を楽しめるバルも併設されています。また、加工品は新神戸駅構内にある売店などでも手に入れることができます。

「俺もバーやろうかな…」

阪急、JRからもほど近い三宮駅前のビル8階にある「Bistro Gallo(ビストロ ギャロ)」のオーナーシェフ川添さんは、他にも「Gallo Bungalow(ギャロ バンガロー)」、「Gallo Garage(ギャロ ガレージ)」を神戸市内に展開しています。いずれも広島県のなかやま牛を使い、赤身肉をしっかり堪能できるメニューが人気です。 いくつかの店舗で料理人として働いた後、2013年に1店舗めのビストロギャロをオープンしました。

ビストロギャロの店内の様子

川添さん「自分でお店をやろうと思ったのは、経営者の友達に背中を押されたのがきっかけですね。やるなら、お店のトップにならなければと思ってやっていましたが、勤めていたらトップにはなれないなと思ったので、自分でやることにしました。」

神戸という街で経営していくということ

2018年の夏に開催されたメリケン波止場でのフードイベント「メリケン波止場で・・・2018KOBE」は、藤岡さんもその主催者の1人。出店を呼びかけて集まった神戸の飲食店約30店舗が自慢のメニューを提供。中にはミシュランの星を持つ店舗もあり、肉料理はもちろん、パスタ、サンドイッチ、中華、そしてもちろんお酒もバラエティに富んだラインナップ。参加者は6000円で食べ飲み放題を楽しめるというイベントでした。そこには錦さんと川添さんも、ぞれぞれ出店者として参加していました

当日の様子。8月の炎天下にもかかわらず700人以上の来場者がいたのだとか!

一部には「神戸は村」と自虐的に言う風潮もありますが、こんなふうに飲食店同士ですぐに集まって協力できる仲のよさは強みといえるでしょう。ライバル店舗ともなれば、競い合って対立することもありそうなものですが、神戸ではそういうことは起きないと皆さんは言います。「街が大きくないから、1つのくくりの中にみんながいる感じがあって、横のつながりは強い(錦さん)」というのは、神戸ならではの特色かもしれません。そんな神戸に対する思いとはどんなものなのかを、みなさんに聞いてみました。

藤岡さん「僕は生まれてからずっと神戸在住なんですけど、神戸は商業施設もなんでもすべて揃っててきれいで、治安もよくて本当に居心地いいですね。飲食店もすっごいレベル高くて、そういうお店が普段使いできる街やなとは思います。
ずっと神戸にいたいから神戸でお店してますけど、飲食店の経営っていうことで考えると、どうなんだろう、ちょっとモヤモヤしたものはありますね。
すごいいい店いっぱいあっていろいろ選べるのに、安いチェーン店に行ってしまうお客さんは多い。それならあと1000円出せばもっとおいしいもの食べられるのにって思ってしまいますね。前は、いろいろ特色ある個人店がいっぱいあったんですけどね。」

川添さん「僕は出身は愛媛県なんですが、仕事でたまたま神戸にやってきたのが約20年前。そのときは衝撃でした。お洒落で、ファッションや音楽の発信地でもある。なのに海も山もあって住みやすくて最高やん、と。駅前もお洒落ですっごい良かったんですけど、そのうち閉店していく店もあって、次にはどんなお店ができるのかと思ったらコンビニだったりドラッグストアだったり。それも時代の流れでしょうがないと思うところもあるんですけど、他府県に行って神戸に戻ってきたときはっとする。神戸らしさはめちゃめちゃ削がれてると思います。」

神戸は大好きだけど今はちょっと残念…。こうなってしまったのは、やはり1995年の震災は大きく影響しています。それまでとそれ以降では、街が壊れてビルが建て直されたことで景色が変わっただけでなく、人の流れが少なくなったことによっても、神戸の景色は大きく変わりました。
北野坂、東門街など、かつてそれらの繁華街はまっすぐに歩けないほどの賑わいようでしたが、今となってはその面影はありません。「あの頃ほどの盛り上がりにはならないにしても、今はちょっと落ち込み過ぎてる」と藤岡さんは言います。

藤岡さん「神戸だけじゃなく、日本全体で、景気はすごく悪いと思うんですよ。僕らが高校生のときに食べてた定食屋の定食が700円で、四半世紀経ってもまだ700円で定食食べられるお店は山程あるんですよね。でも、人件費なんか1.5倍くらいになってるし、食材の仕入値も上がってる。でも、700円じゃないとお客さんは来なくて、じゃあ誰がしんどい思いするかって、第一次生産者と店の経営者じゃないですか。結局、そこが潤わないってことは、景気が悪いんだと思うんですよね。」

藤岡さんの指摘は、いまの日本の経済が抱える大問題でもあります。「コスパ」ばかりが重要視されるようになってしまったことでさまざまな歪みが起き、それが街全体にも影響しているんですよね。

錦さん「僕が肉屋やったのも、結局はみんな神戸来てほしいからなんです。他府県の人も、海外の人も。神戸にきてもらうきっかけを何か作りたいっていう思いはけっこうあって、「神戸ビーフ」って有名やし、それで肉屋っていうのがいいなと思ったのもあります。」

藤岡さん「神戸って、住めばすごく心地いいし、飲み歩いたり食べ歩いたりしたらその良さめちゃくちゃわかるんですけど、パッと来てパッとその良さが分かるみたいなインパクトは弱いかもしれないですね…」

長く住んでいるからこそ、そして愛着があるからこそ、少々厳しめの言葉が続きます。でも、街に元気がなくなっていく現象は、日本中のあらゆる街でも起きていること。だからこそ、元気になるときはその街にしかない魅力や強みでもって、オリジナルな展開を見せてくれることを、私たちは期待します。仮に街に元気がなくても、そこにいる人たちの営みが豊かであれば街は活気づいていくはずで、それだけの期待をしたくなるこれからの展望も、たくさん飛び出しました。

川添さん「僕はもともとものづくりが好きなんで、飲食に携わるもの、たとえば食器とかを作りたいなと思ってるんです。家で食べるときって、めちゃくちゃおいしくても、盛り付けで感動とか満足度が変わってくるじゃないですか。だから「ギャロを持って帰ろう」っていうテーマで、食器、カトラリー、飾るための花とかナプキンとか。そういうのが素敵だとテンション上がるじゃないですか。家でご飯食べたり、お酒を飲んだりすることって楽しいということを提案できればと思ってるんですよね。」

錦さん「僕は、ランチとか夜のメニューも作りたいなと思ってます。いままでインターネット通販と肉の販売をしてきたから、はじめて飲食店をやる感覚になってるんです。それば僕がやりたいというよりは、店のスタッフから出た意見で、みんなでそういうふうに進めていけたらと。
あと、個人的には版画をしたいですね。店で売ってるジャーキーのパッケージは、僕が木版画で作ったものなんですよ。だんだんハマってきてて(笑)。版画家とかいいなぁと。」

これは、文字もすべて錦さんオリジナルの木版画なんです。すごい!

藤岡さん「僕はハム屋さんしたいなと。ヨーロッパは、街の中に1つか2つは必ずシャルキュトリっていうハム屋さんがあるんですよ。日本でいう漬物屋さんとか豆腐屋さんみたいな感覚ですね。それを、安全性にもこだわったきちんとしたものを売ることができればなーと、夢みたいなものですけど思ってます。その前に、しゃぶしゃぶ屋さん、その前にソーセージスタンド、もしくはとんかつ屋さんとかも…。」

みなさんのこれからの展望はどれも、飲食店の枠だけにとらわれない楽しみなものばかり!今後の展開にも、要注目です。

「食」を扱うオーナーとして思うこと

最後に、みなさんにお店をやっていて幸せに感じることを伺ってみました。

川添さん「料理とかお店とかいうのは、僕にとっては自分を表現する方法みたいな感じなんですよね。今となっては店舗も従業員も増えたし、お客さまも含めて人との出会いが増えてきて、そこでお店や内装や料理に対して共感をしてもらえる、いいなって感じてもらえることは幸せだなぁと思います。
ごはんって家でも食べられるものですけど、僕らの仕事というのは、それに対するプラスアルファで、特別なイベントやお祝いの空間を委ねられることも多くて、それはすごく幸せだと思うんですよ。日々のちょっとした喜びとか、楽しみとか、そういう小さなきっかけになってるっていうことを実感するのは嬉しくて。時々その感覚を忘れそうになることもありますし、自分のやりかたが100%正解でもなくて、まだまだやれることあるなとも思うんです。自分のさじ加減次第ですし、いろんなこと考えて、試行錯誤しながらやっていけてることが、面白いなと思います。」

錦さん「僕は、もともと通販をやっていたから、そのときと比べればお客さんの反応を直接感じられたり、こちらが伝えたいことも、店舗だとすごく伝わりやすいってことですね。街の声もすごくキャッチしやすいし、自分も街づくりに参加してる感覚になれるところがいいです。「前から知ってるよ!」とか「応援してるよ」とか、「ありがとう」っていう一言だけでも幸せやなって。そういう瞬間が、店に立ってたらすごいいっぱいあるから、しんどいときもありますけど、いいものいっぱいもらえてるなって思います。」

藤岡さん「少なからず「発信源」になれていることですかね。僕はハムやソーセージなどの加工食品も作ってるんですけど、自分の大事な人や子供に食べさせてあげたいと思うものを発信できるのがいいなと思います。
畜産家さんにしても農家さんにしても、一次産業の方は情熱を持ってる方がたくさんいるので、そういう方が日の目を見ないとあかんと思っていて。お野菜も肉も作るのはすごい大変な作業でしょ。それを大手企業の商品と比較して100円や200円で買えるものだという概念で見るんじゃなくて、この人がこうやって作ってるんだよ、こんなに手間暇かけていて、だからこれだけの値段なんだよっていうのをちゃんと伝えていって、少しでも助けになればと思ってるんです。発信っていうのは、そういう部分もですね。」

神戸の飲食業界を牽引していくであろう3人の対談、いかがでしたか?年代も近く、お互いをよく知っているというメンバーでのインタビューは、終始和やかなものでした。でも、それぞれがクールに神戸という街と付き合っている、経営者としての側面を覗かせる瞬間も。同時に、いち職業人としての熱いこだわりとポリシーも見せてくれました。それはまさに、 溢れ出す熱い肉汁のように感じたとか、感じないとか…。

神戸の「肉」はまだまだ進化していきそうです。今後の展開にぜひご期待ください!

三宮一貫樓 安藤からひとこと

ここ数年、大阪や京都で名店、繁盛店、予約困難店と呼ばれるお店を数々見て来ました。 いずれのお店も素晴らしく、料理、空間、店主のキャラクターに魅了、圧倒された過去もありました。しかし経験を積むにつれ「あのパフォーマンスは価格に入ってる!?」「あの予約のシステムって??」等の粗(あら)も見えるようになって来た自分がいました。

そうして養ってきた眼で改めて地元神戸の飲食店を見渡してみると、少々地味ながらも大阪や京都の名店と呼ばれるお店と比べても何も劣っていることはありません。むしろ味や空間、そして価格のトータルのバランスに関しては神戸のほうが秀でていると、他を知った上でそう感じています。元町、三宮のサイズ感まで含めてまさに「#ちょうどいい街神戸」なのです。その素晴らしさを地元民である我々がもっと享受して発信しないといけないのかもしれませんね。

そして今回の対談を通して改めて感じたことは、神戸の飲食店主は(自分も含めて)仲が良いということ。ここに登場したお三方だけでなく、業界の重鎮やお三方の背中を追っている若手店主たちも、ひとつの志の下に一致団結するさまを幾度も目にしてきました。目には見えず解りにくいですが、それが神戸の飲食店の、他の都市にはない強みかもしれません。時に「村」と評される部分もありますが、中に入ると心地いい、そんな神戸をこれからも愛し、応援していきたいと今回の対談でさらに強く思いました。

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